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キャリア教育
学生のキャリア支援とキャリア教育について
(2020年3月で「キャリア教育」に関するNews Letterは廃刊になりました)
「学生の声やその視点を尊重する」という一見もっともらしい理由づけは大切なことでしょう。またそれを理由に,データの収集を行うことも必要なことだと思いますが,それも読み取りを誤ると愚かな結果を招いてしまう危険性があります。マスメディアなどで,若者の“声”を集めれば「本音」と読みかえてしまうことと同じです。
就職支援関係で,「もっと早くから…」という学生の回答を支援の根拠のひとつとするような場合,回答者の現在の状況(希望通りの進路だったのかどうかなど)といったことと併せて検討しないと,“声”の上っ面だけへの対応になりかねない。人間の時間的展望のもつ心理的特性にも配慮が必要である。人は多くの場合,後悔の中で「早めに…」と振り返って反省する。受験に限らず災害や不測の事態にあったとき必ず耳にします。
就活サービス産業などにも「早くから」「早めに」といった言説があふれています。それが本当に就活の成否を決めているのか確証はなく,そう思い込んでいるところのデータを根拠にしているきらいがあります。何が「内定」やその満足を規定するかの要因はかなり曖昧なままで、早く活動しても就職できなかった反証事例も数多く存在します。
そこで,今年度の1年生の“声”を聞いてみました。コロナ禍で遠隔授業になった影響があるかもしれませんが,回答で目についたのは「いろいろ学びたい」・「(就職に)追い込まないでほしい」といった記述でした。良くも悪くも「就活」の話題が新たなストレスを生み出しています。「学問をするはずの大学生活が、就職活動のための大学生活になりうると懸念している」「大学には学びにきました。就職のことはこれからじっくり考えたいと思います。そのための時間を受験勉強のようには過ごしたくないと思いました。」「受験の話ばかりの高校生活から就職の話ばかりの大学生活では何のために入学したのかわからなくなる。」このような声が対象となった約200人中3割程度ありました。
なお,前期のキャリア形成論で大学生の就活や採用動向について取り上げていたのですが,後期11月での特別講義で上述のようなアンケートを行いました。その結果,後期に初めて聴いたような回答・記述が散見され,入学後あまり時間が経っていない状況では就職指導の効果は低いように思われます。むしろ,前期の形成論での蓄積を生かした後期の就職支援が効果的ではないでしょうか。
中には受験エリート養成のように,早くから目標をたてさせ,わき目も振らずに準備に追いたてようとする教育もあるのでしょうが,本学はどのような支援を行っていくのでしょうか。早い段階での固定的職業イメージが早期離職を生みだしていることもあります。「学ぶことで視野を広げながら,迷うことで情報を吟味する力を養っていきたい」という声こそが,キャリア教育に求められている大切な要素の一つではないでしょうか。